ほとけさまのお話
2024/04/08 野ばら
隣り合う二つの国があり、国境には両国から兵士が一人ずつ派遣され、国境を定めた石碑を守っていました。大きな国の兵士は老人で小さな国の兵士は青年です。
二人はそのうち仲良くなりました。国境には一株の野ばらが茂り、朝早くからミツバチが集まって、その羽音で二人はいつも起きるのでした。毎日将棋を指すようになります。青年は初心者でしたが老人に教わり、老人と対等に指すほどになっていました。
やがて春となると、二つの国は戦争を始めました。二人は敵同士になったのです。老人は「私の首を持って行けばあなたは出世できる。だから殺して下さい。」と青年に言いますが、青年は「どうして私とあなたが敵でしょう。戦争は北のほうで開かれています。私はそこへ行って戦います。」と、老人に言い残して去ってしまいました。こうして国境には老人だけがただ一人残されたのです。
ある日国境を旅人が通り、老人は戦争について訊ねました。旅人は言います。「小さな国が負けてその国の兵士は皆殺しになった。」老人は青年が死んだと思い、石碑の礎いしずえに腰をかけてうつむいていました。すると老人はいつしか居眠りしていました。
―――彼方から一列の軍隊が歩いて来ます。そしてそれを指揮するのは馬に乗ったあの青年です。やがて老人の前を通るとき、青年は黙礼をして、バラの花を嗅いだのでした。
老人が何か言おうとすると目が覚めます。それは夢だったのです。それから一か月後、野ばらは枯れてしまいました。その年、老人は暇を貰い、南のほうへと帰って行ったのです。
(『野ばら』小川未明 あらすじ)
語り合えば文化や年齢も超えて友人となれる私たちが争い合うのが戦争の恐ろしさです。あらゆるいのちを平等にみてくださる仏さまの教えの中に、周りの人を尊重していく心をお育ていただきましょう。
副園長